4)養蚕農家の越屋根(こしやね)
長野新幹線で長野県から群馬県に向かう途中の車窓から、二階の屋根の上に小さな屋根が乗ったような屋根のある伝統的な農家住宅が目に留まります。
丁度、親ガメの背中に子ガメが乗ったような屋根で、その小さな屋根の下に窓らしきものが見えます。
この屋根を越屋根(こしやね)と言います。
越屋根は関東一円に見られ、町づくりの仕事で3年ほど通った長野県千曲市の農家にも見られました。
棚田と姥捨て伝説で有名な姥捨山を越えて松本に至る街道筋に面して建っていた養蚕農家です。
二階の瓦屋根の上に乗っているのが越屋根で、屋根の下にスリット状に窓がついています。
製糸工業が盛んになり、農家の副業として養蚕がひろまった時に、二階で蚕を飼うためにつけられた増築よるものです。
蚕が小さい時に細菌感染から守るために、新鮮な空気と光を取り込むために設けられました。
町づくりの一環として実施された市営住宅の設計、建設においても、地域の特性や歴史を現代の生活に合わせて再評価し、組み込むために、越屋根を一つの環境装置として組み込みました。
平屋建ての公営住宅ですが、長野県産のカラマツを構造、仕上げ材に活用して、外壁はカラマツ板の腰板貼りと漆喰、屋根は周辺の山並みと調和するように瓦葺きです。
中央に越屋根を設けています。
越屋根の下の和室のロフト収納です。
カラマツ板で天井を屋根まで打ち上げて、一番高いところに越屋根があります。
左側が冬バージョンの場合で、寒さを防ぐために蓋のような天井扉を閉めています。
右側は夏バージョンの場合で、天井扉を開けて通風できるようにして、風の道をつくります。
中央の部屋のため窓は南側にしか無いので、夏場は庭から越屋根に風が通ることで、風の道がある快適な環境を作ります。
大きな設備を導入しないで、ローテックな仕掛けでも工夫次第、設計次第で快適な住環境が実現できますね。
伝統の知恵を現代に工夫しましょう