10)本物の木の家で長期優良住宅ー3
3、耐震性ーその2
前回の「耐震性ーその1」では、木の家でもビル建築と同様な「許容応力度計算」による構造計算で耐震性をより精密に確認できることをお伝えしました。
すべての部材と木組みの構造安全性を確認して、最終的に「層間変形角(そうかんへんけいかく)」という数値が基準以下であるかを確かめました。
その考え方は、大規模な地震時の水平方向の揺れに対して、一階や二階の階ごとに壁が平行四辺形のように、どのくらい変形するかを想定することでした。
その変形が小さい方が横揺れが小さいことになりますね。
東北関東大震災の地震の揺れが東京の高層ビルの高層階を大きく横に揺らしました。
中にいた人が死を覚悟したと言っていましたが、長周期振動による揺れでした。
そうした揺れが木の家で起きますと、壁の割れや窓ガラスの破損、屋根の損傷など大きな被害になります。
それを防ぐために構造設計と構造計算が必要です。
さらに、もう一つの計算が必要になります。
それは「偏心率(へんしんりつ)」というものです。
層間変形角が壁の横揺れについてでしたが、偏心率は建物の「捻れ(ねじれ)」をシミュレーションするものです。
四角形の間取りの家と仮定すると、その対角線の交差点が家の重さの中心である「重心」になります。
それに対して、耐震壁の位置がムラ無く均等にレイアウトされていると、建物の強さの中心=「剛心」が重心と同じになり、地震時に捻れるように揺れることはありません。
しかし、実際の家は、窓が南に多くあり、北には壁が多くあるため、北側は揺れが少なく、南側は揺れが大きくなります。
その場合の建物の堅さの中心である剛心の位置は、建物の重さの中心である重心より北にズレます。
結果として、重心と剛心がずれることで、家がねじれるように揺れることになります。
そうすると、弱い南側に大きな力が加わり、壁や柱などが損傷しやすくなります。
損傷を少なくするためには重心と剛心のズレをある一定の範囲以下にする必要があり、耐力壁の配置や強さに工夫が必要です。
調布の家は瓦葺きで屋根の重さが大きく、敷地に合わせて形が矩形ではなく、少し変形しているため偏心には注意が必要でした。
そこで、普通は壁が多くなる裏側の浴室や洗面所の窓を、バスコートに面する設計として大きめに取り、その分一階の家の中心部分に耐力壁を設けることでバランスを良くしました。
その結果が地震時の偏心率が最大で0.169となり、基準値の0.3のほぼ半分に出来ました。
1、2階の横方向と縦方向について、地震時と強風時の二つの条件で検討しています。
とても良い結果です。
これらの他にも、合板を使わないで二階の床を固い床=剛床(ごうしょう)にするために、3センチの厚板と梁、根太(ねだ)の組み合わせによる実験データのある造り方を採用しています。
30坪ほどの家ですが、山椒は小粒でピリリと辛い=そんな木の家になっています。
木の家が捻(ねじ)れないように